台湾及び米国から感じるITの方向性(1/4)

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更新日:2019/09/02

ITについて私自身、海外の実情に直接触れる機会が5年前までありませんでした。
日々の業務では、国内の状況が全てで、海外の情報は書物やネットで得ていた程度です。

そんな中、5年前から世界第2の規模を誇る台湾でのIT展示会(COMPUTEX TAIPEI)への視察機会をいただき、4度の視察を重ね、年々日本国内とはひと味違ったグローバルな視点の一端が見えてきました。

また、今春に弊社社員が訪米した際「現地でのIT活用に考えさせられる点がある」とのことで、詳しくヒアリングをおこないました。
このような事柄から見えてきた、発想、 環境、歴史などの違いで発展してきた、海外事情から垣間見える思想と展開について考えていきます。

<< 目次 >>
  • COMPUTEX TAIPEI 2019
  • 米国のキャッシュレス事情
  • A氏の米国Uber体験!
  • 台湾及び米国から感じたこと(考察)

COMPUTEX TAIPEI 2019

1981年に始まった世界有数のICTとIoTに関するイベント展示会で、今年で38回を数えます。
今年の出店規模は、1,685社、5,508ブース、来場者数42,459人(171ヶ国から)
そして今年2019年のテーマは以下でした。
  • AI&IoT
  • 5G
  • ブロックチェーン
  • イノベーション&スタートアップ
  • ゲーミング&XR

さて、今年の展示会の中から、目を引いたものを紹介していきましょう。

■ASUSのブース

ASUSのZenBook Pro Duo / ZenBook Duo
従来のキーボードの約1/2のスペースにスクリーンを配置し、メインディスプレイからドラッグすることで、サブディスプレイに移動でき デュアルディスプレイとして使用できます。

ASUSはZenboを始め、ZenBookやZenFone5など毎年新製品の展示がされていますが、 今年はZenBookが進化したノートPCがメインで展示されていました。
ノートPCにデュアルディスプレイといえば、外部ディスプレイを用意しHDMI(またはD-SUB)にて接続するのが一般的です。
ノートPC単体でのデュアルディスプレイは奇をてらったようにも思いましたが、実際に使ってみるとサブディスプレイが見やすく、別作業を行えるので確かに使い易いです。

近年のノートPCといえば、タッチパネル式のディスプレイが主流になっており、タブレットとの境目も曖昧になりつつあります。
またスマートフォンはタッチパネルが常識で、従来型のPCを使わない一般の方々には当たり前のテクノロジーであり、私自身も操作感には何ら違和感を感じませんでした。
しかし、実際にプロダクツとして発表してしまうASUSには驚きです。
日本での発売時期は2019年の第3四半期のようですが、値段次第ではとても欲しい製品です。

他には、同社は2016年にZenboを発表しました。
今年はそのZenboが約半分ほどの大きさのZenbo Juniorとして小型化されていました。
Zenboにも音声認識はありましたが、Zenbo JuniorはAlexaと連携し、更に教育用にZenbo Labを搭載し、段階を踏んだAIのプログラミングが学べるようになっています。

このように、3年前の製品を年々ブラッシュアップして、進化させてきています。

■MOD PC

冷却水にビールを使用したハイネケンとのコラボレーション「PC」
MOD PCとはケースや、パーツを改造して造られたPCのこと。
PCのサーバはサーバでも、ハイネケンのBeer Serverも兼ねているのですね。
PCの冷却液に本物のビールを使用していますが、もちろんPCです。
その場でビールを試飲することができ、来場者も体験をしていましたが、ビジネスと飲酒を混同出来ない真面目な日本人では真似できない発想ですね。

海外の簡単なミーティングでは、ビールやワインを飲みながらという場面もあるとのことで、実際に昨年訪問した台湾企業の会社視察では昼食会の際に大量のビールが出ました。
私はアルコールが苦手なので、口を付けた程度でしたが、他の社員は普通に飲んでました。

PCで仕事しながらビールも飲める。飲める人にとってはいい?のでしょうか?(笑)


その他のMOD PC
このようにMOD PCの世界は「遊び感覚」が満載です。
ゲーマーが多く使用(作製)している背景もあるのでしょうが、見ていて飽きませんし、それぞれの発想に大きなカルチャーショックを受けます。

■AI

近年ブームのように取り沙汰され、人間の業務が脅かされるなどの流説も世間を賑わせている「AI」。
そんなAIは、本展示会では極めて常識的な画像認識を使用したものが多く展示されていました。

「常識的」と感じるのも、AIが使用されていると、来場者に一目でアピールできる展示物として「画像認識」が一番適しており、その為の展示ブースが多かったのだと思われます。

展示されていた具体的な活用法を見てみましょう。
インタラクション分析による授業の質の最適化

超音波画像の分析

キーポイントの運動分析

交通量の測定

顔認証による訪問回数などの表示

POSレジへの応用
すでに日本で実用化されているものも多くありますが、身近なものから医療現場など、多岐にわたり画像認識を使用したAIが取り入れられていました。
交通量の測定では、現在、台湾の都心部渋滞が深刻化しており、これはバイクが原因で引き起こされる渋滞なのです。
この問題解決のために、バイクを含めた交通量を測定し渋滞を予測するのに必要なデータを集めるものが注目されていました。

顔認識技術を使用した年齢、性別、感情、訪問回数を表示する展示品がありました。
私もカメラの前に立ったところ、年齢について実年齢より10歳ほど若い26〜31歳と、少し笑える判定がされました。
精度に関しては正確に判定するというよりも、おおよその年齢層がわかることでデータとしては十分という考え方なのか?それでも10歳という差が許容範囲なのか?は疑問として残ります。

このようなソフトウェアの曖昧さは、人命に関わらないプロダクツにおいて、海外の展示会では多く見受けられます。
「年齢」が重要なファクターとなる場合は、その開発段階で精度を上げていくといったところでしょうか、先ずはプロダクツを展示することに意味がある様に思われます。
彼らからするとプロダクツの精度より、発想を展示することが主目的ですから大きな問題ではないのでしょう。

実際、数年前に弊社社員が現地で、前後にミニカメラを装着するバイク用のドラレコ製品を見つけ、サンプル購入し、その後やりとりしたところ、ソフト、ハード共に安定せず、何度もやりとりをしましたが、最終的には「ソフトウェアについては、おたくで開発出来ないか?」という始末。

このように、ハードウェアの発想そのものを売りにし、ソフトウェアについてはリリースまでに精度アップ、若しくはリリース後に精度アップと、目論んでいるようで、彼等にはまずは世に出し、ビジネスにすることが最優先なのでしょう。

因みに、前後記録のバイク用ドラレコは、当時の日本では目にすることもなく、COMPUTEXでもこの一社しか展示していなかった代物でしたが、現在の日本国内では普通に販売されています。
横道にそれましたが、このようにAIの展示については昨年も「顔認証」で性別を判断するものが展示されており、人によっては反対の性別が出てしまうといった状態でしたが、今年は性別は正しく判定され、他の項目(表情、年齢など)も追加され、展示物の精度も進化しているようです。

顔認証については、身近なものではスマートフォンやPCのロック解除に使用されています。
機種やメーカーの精度によって、写真で解除できてしまうものも存在しますが、進化が著しいスマートフォンのカメラのように顔認証に使用されるセンサー性能が上がり、 3次元での精度も高くなっていくことを期待してしまいます。

POSレジへの応用は、バーコードの無い商品の読込、レジでの行列、作業の効率化、にAI活用が見込まれ、その最たるものは「手作りのパン、ケーキ屋」などでしょうか。
バーコード読込が出来ないので、目視で確認の上、商品キーを叩いていた現状を、トレイに乗せたものを画像認識して集計するシステムです。
まさにAIを使用した画像認識の仕組みですが、これは目新しさも無く既に世に出ています。
それでも開発して展示出展する意味は、サードパーティの様な会社が廉価版を展示会出展し、二匹目のドジョウを!といったところでしょう。

日本ではこういった「メジャリーグ級」の大手が実施済みの市場に、「草野球チーム」範疇の個人経営のような会社が挑むことは到底考えられませんが、この非常識とも見える何でもアリでのチャレンジ精神が、市場の裾野を広げている要因でもあるのではないでしょうか。

■ゲーミングチェア

今年、特に目についたのが「ゲーミングチェア」です。
ゲーミングチェアと言えばどういう用途を想像するでしょうか?
最近ではe-Sportsが有名になっており、プロゲーマーとなると練習時間は1日10時間以上と言われています。
ゲーミングチェアという名前の通り、長時間PCの前で練習するゲーマーの疲労軽減が目的と私は思っていました。
しかし展示会では対象をゲーマーだけに絞るということはありませんでした。

ゲーミングチェアの特徴といえば機能性で、180度リクライニング、アームレストの3次元可動、着脱式ヘッドレスト&ランバーサポートなどを備え、オフィス家具にはない高機能なものです。
数年前から展示するブースがありましたが、今年は格段に増えていました。
今までより遥かに目につくため、ブースで詳しく話を聞いたところ、その背景には以下の要素があるようです。
  • 価格の低下
  • 海外での用途の変化

価格に関しては、どのブースでも一脚の値段が概ね50US$〜150US$(FOB価格)で、日本円だと5,500円から17,000円ほどとなっています。
価格の低下により、欧州などの諸外国ではPCゲーム専用として販売されているわけではなく、疲労軽減のため一般オフィスでも採用が飛躍的に伸びてきているとのことです。

日本人の感覚では、ゲーミングチェアはあくまでも遊びの道具であり、オフィス家具にこのような思想を入れること自体が別物と捉えられてきたように思います。
しかし海外ではオフィス利用が進み、これをビジネスチャンスと捉え、今年の展示会にはサードパーティを含め多く出展されていました。

実際にブースに話を聞きに行き、日本人とわかると熱心に取引を持ち掛けてきます。
その際、必ず欧州での取引実績を説明してきます。
これは、日本が市場的にまだまだ発展途上にあるとの判断なのでしょうが、こう言った点も海外との市場の差異を感じさせられます。


以上が私の独断と偏見で目についたプロダクツですが、5年前の最初の視察から私自身が感じていたことは、日本の展示会で見られるソフトウェア中心の「ソリューション」ではなく、ハードウェアが中心である事と、ビジネスへの大変な熱意です。

ハードウエアは自由闊達な発想を形にしたものが多く目に付きます。
過去には「完全防水POSレジ」「LEDプロジェクター」「VR」など、その年々のブームはありますが、とりあえず形にして顧客の反応を観測して可能性を探る。といった感じです。

何か一つに特化するというよりも、いろいろなモノを作ってみるというチャレンジ精神にあふれています。
数十年前のアメリカン・ドリームにも似ていて、アイデア次第での成功を目指しているのではないでしょうか?

実際に弊社とお付き合いのある、ヨーロッパの医療機器中心のアッセンブリー会社は、数年前はベンチャーでしたが、現在は台湾上場企業となり、あっという間に数百人規模の会社となっています。

余談ですが、数年前に比べて現在の台湾の高速道路では、スーパーカーやドイツ車がよく目につくようになりました。
弊社の知り合いの社長もフェラーリやマクラーレンを数台保有しています。
要するに本展示会は「一般常識」などは無く、何でもアリで、出店者の発想アイデアを形にし、成功しようとするエネルギーに溢れており、成功を収めた先駆者も多く実在していることです。

このような環境から、当然のように遊び心と利便性の可能性を追求したプロダクツが多く、 更に初めて見たときに「そんな馬鹿な?」と感じるプロダクツも沢山あります。
しかし、その「そんな馬鹿な」製品が展示会の半年後くらいには秋葉原や大阪の日本橋界隈で普通の家電製品、ソリューションとして毎年毎年リリースされているのです。

本展示会の各ブースの説明員も、決まってFOB価格の提示とロット数による重量値引など、実際の取引に話が及んできます。
こういった説明員の姿勢も、国内展示会との違いを感じさせられます。

また大手企業、特にMicrosoftやASUS、Acerなどの新製品は、日本よりも早く展示発表されます。
大手の新製品発表、遊び心、豊富な発想、熱いビジネス姿勢など、日本国内の展示会では味わえない空気を台湾のIT業界に感じ、この数十年目覚しい発展をしてきたのです。
兎にも角にも現在の日本国内でのIT、特にハードウェアのトレンドの一部分は、本展示会が発信元であることは間違いありません。

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